たしか、あの日はFenderのStratocasterが、兎に角欲しくて、考えるだけで暴発寸前状態となっていた。

とてもじゃないがこの衝動は抑えきれそうもない。

ちょっと川、行ってくる

そう家族に言い残して、単身ダッシュで楽器店へ向かったんだ。

実はそういうことがたまにある。

消費に対してオラは猪突猛進派なのだ。

いったいどんな育ち方をするとこうなるのか。

勿論、常習であるから反省の素振りもなく、Fenderを買った後の幸せな生活を色々妄想しながら目的地へとハンドルを切ってゆく。

それから数十分走行し、漸く楽器店に到着するや否や、

「Fenderが欲しい、試しに弾かせてくれ」

と、第一発見店員に「本気買いのオーラ」を放ちつつ間を詰めるも、開店直後だったこともあり、店員は意外にそっけない。

むしろ「面倒な客が来た」と案ずる顔が今でも思い出せる。

朝一から鼻息の荒い中年オヤジが突然詰め寄ってくるのだから、ハッピー要素はゼロだ。

言葉では「わかりました」とすぐにFender Player(Mexico)を用意してくれた。

店員は慣れた手つきで耳チューニング。

また、確認の序に、そのファンキーに伸びきった長髪の風貌には全く不釣り合いな、クラッシクギター調なフレーズを華麗に試奏し始めた。


オラ:「 ゴクリ ・・・」


店員:「お待たせしました、どうぞ、ハーモニックスは弄ってないんで」

オラ:「ハモ?、あ、どうも、始めて間もないので、下手ですみませんが弾かせてもらいます」

店員:「あ、そうなんすか、自分が良ければ何でも良いんですよ、楽器なんてそんなもんですよ。ハハッ」

オラ:「ありがとう、では、色々弾かせてもらいます」



 [試奏中・・・・]



店員:「ゴクリ・・・」




店員:「え、あ、それ、きらきら星ですか?ちゃんと弾けてるじゃないですか。」



オラ:「ありがとう、ホント、これしか弾けないんで。あと、これ、アンプのボリューム下げて良いですか、みんなに聞こえて恥ずかしいので。」


土曜日の開店直後だったこともあり、購入した楽器を引き取りにくる客が数組いた。高校生くらいのピチピチ女子やその他少数の男子だ。


彼らがオラの試奏の一部始終を聞いて何と思ったかは知らない。


「病み上がりの人」とか、「何か事情がある人」 が弾いてるのかな?と、きっとピュアなハートの彼らなら思ったかもしれない。


なぜならば、今日、ここへ来た経緯、そしてありったけのフェンダー愛を店員に親しげに語りながら、きらきら星やクロマチックを弾き続けている男。


これは単なる「下手くそ」の一言では片づけられない 。


ブライト気味にセッティングされた試奏用のジャズコーラスからは、十分に良い音が出ている。


オラの所感ではこのメキシコはノープロブレムだ。

「是非買いたい」と告げると、店員もオラの実力やその他事情を理解した上で、予算的にも「Japanですね」とのことで、早速別の個体も試奏させて頂いた。



そしてボディーカラーも「白にしよう」とバタークリームを選択して イレブンナインの確度で事が進んでいた。


だけど、結局家に連れて帰ってきたのがコイツだった。


楽器店の試奏場からレジまでの、ほんの僅かの距離に異常に気になるヤツがいたんだ。

オラ:「何、この鳥?」

店員:「PRSの安い版ですよ、弾いてみます?」

オラ:「せっかくなんで、良いですか?」


この数日後、満面の笑みを浮かべながら鳥を丁寧に車へ詰め込むオラがいた。

決め手はよくわからないが、少なくともフィーリングの問題だ

また考え得る要因として、物理学的にFenderより、 鳥の方が少しだけ万有引力が強かったのかもしれない。何れにせよ僅差ではある。

小さなきっかけで手にするモノが変わる。

これが運命ってヤツなのかもな。

そして今も、これからも、コイツと共に練習していくんだ。

鳥ちゃんよろしくな。